紅烏の独り言

えいえんのにわか丸出しボーイ

「バーチャルさん」1話はなぜ失敗の烙印を押されたのか

先日公開されたアニメ「バーチャルさんはみている」。一昨年の末からネット上で人気の存在、バーチャルYoutuber※(以下、Vtuber)達の様々なコーナーによるオムニバス形式で展開していくアニメです。

 

※ちなみに中にはVtuberではなくバーチャルライバーを名乗る出演者もいるが、ここでは便宜上Vtuberと呼ばせて頂く。

 

「バーチャルさんはみている」は今話題の彼らを起用した冬アニメの意欲作の1つとして注目されていました。

しかし、いざ公開されるとネット上では「懲役23分」「学芸会」「公式クッキー☆」「やっぱつれぇわ…」など批判的な声が数多くあがりました。

一体なぜこれらの反応を貰うに至ったのか。それを良く言えばVtuber大好きマン、悪く言えばただのバチャ豚こと私が、真面目に分析しようと思います。

 

☆各コーナーの感想

まず分析する上で必要な「バーチャルさんはみている」1話の内容に関する感想を、各コーナーごとに見ていきます。

非常に独断と個人的な感想が含まれますので、「そんなん興味無いわ」という方はすっとばして貰って構いません。

 

・プロローグ


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はっきり言ってつかみは失敗です。

ばあちゃるをナレーターとして起用したのは適材適所だと思いますが、その馬の特徴を全部潰した上での起用であり、つまらないものに感じてしまいます。

また、出演者各々の個性が強すぎるあまり、彼女たちのことをよく知らない初見にとってはこれだけの紹介映像で個々に感情移入する(俗に言う「推す」)ことはできないでしょう。

どんな漫画やアニメでも物語を進めていくうち、主人公に感情移入していきます。「1話」というのは大体そういうものです。このアニメはオムニバス形式なので、ある程度仕方ないことではありますが、もう少し段階を踏んで彼女たちのことを覚えてもらう必要があると感じました。

 

・Virtual Wars
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ゲーム部プロジェクトの4人による寸劇。彼らはゲーム実況の傍ら、世界観のすごい演劇の動画をあげることで知られます。

…というのもただの内輪ネタ。開始してから彼らの登場人物紹介はありません。台本もまだ無難な方でしたが、彼らのファンからすると、物足りない印象を受けるかと思います。

私個人も、ゲーム部に台本書かせた方が面白いのではと思いました。個人のキャラも活きるでしょうし。そうなれば、やはりまずキャラを知ってもらうところから始めるべきですが。

ただ演技の安定感は確かです。

 

・バーチャルグランドマザー


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休憩ポイント。

ラスボスでおなじみ、小林幸子のコーナー。

しかしこの人はVOCALOIDにしろVtuberにしろ新しいものを迎合できてて凄いなあと思います、というのは蛇足です。

 

・レッツゴー!教室
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ぶっちゃけ1話で一番面白くなかったのはここ。

わちゃわちゃしすぎてて、展開についていけませんし、台本読まされてる感が非常に強い(月ノ美兎の無理なキャラ維持とか)。

これなら、もう少し人数しぼって同じ状況に放り込み、アドリブでやらせた方が数段おもしろかったんじゃないかと思いました。個人の力量は必要ですが、ここに集まってるのはVtuberの中でも精鋭たちですから。

ピーナッツに救われることになるとは」というコメントも見られました。割とその通りでした。

 

・富士アオイ公園(パーク)


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意外と評価のいいコーナー。「歌うま」で知られる2人のVtuberのコント。

一体どういう風に話が続くのか気になります。

 

・てーへんだ!アカリちゃん
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ハイテンションなミライアカリと田中ヒメのコーナー。Vtuberファンとしては、普段の動画のような雰囲気でプロローグよりは安定感があります。

しかし、2人のことを知らないと必ずついていけない。興味の無い芸人のトークショーを見てる気分になることうけあいでしょう。

 

・ひなたちゃんは登校中
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ゲーム脳というわかりやすい題材で、視聴者層には受け入れられやすかったはず。ただ「ドン勝」やらPUBGあたりのゲームの知識がないと分かりづらい。

彼女のキャラもハチャメチャというほどでもないので、脳みそもある程度ついていけたでしょう。

 

・うんちく横丁
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休憩コーナーその2。

うんちくを話す電脳少女シロの「シロちゃんの〇〇は為になるなぁ!」というネタに乗っかったものだと思います。

 

・委員長、3時です。
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月ノ美兎やゲストの剣持刀也が所属するグループ、にじさんじを知らないと恐らく楽しめないコーナー。アニメで「剣持力也」の名前ネタをする必要はなかったでしょう。

しかし、内容はフリートーク寄りの彼らの本分のようなところでもあり、普通に面白いです。評価が分かれるコーナーだと思います。

 

・ユニティちゃんはコロがりたい
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「Unity(ユニティ)」とは簡単に言えばゲームエンジンで、ユニティちゃんはそこに登場する3Dモデルの素体としても登場するマスコットのようなキャラクター。

そんな出元もあってか、アニメーションの安定感が半端ない。1話だけでは全く内容が掴めないので、今後に期待してます。

 

・ケリンスレイヤー
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ニコニコ動画で人気のケリンの冠コーナー。

内容の展開に無茶はありませんが、「ぶち飛ばして行くぜ!」なども内輪ネタと言えば内輪ネタ。変顔も初見からしたら「?」のはず。

途中諸般の都合(ケリンの3Dが間に合わなかった?)で静止画や絵コンテになるなど、掟破りな展開を見せました。

 

・聞いてよしすたぁ!
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休憩所その3。

にじさんじ所属のシスター・クレアのコーナー。にじさんじのメンバーは基本2Dのペラッペラで、3Dのばあちゃるやときのそらと組み合わさるのは難しいのですが、上手くそれを誤魔化せていました。

 

・エンディング


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お便りコーナー。内容はさておき、ここまでくると最早これはアニメなのかという疑問がふつふつと湧き上がってきます。これに関しても後ほど分析します。

 

2.5次元という存在の難しさ

ここまで「バーチャルさんはみている」の1話の感想を、各コーナーごとにべらべらと述べてきました。個人的な総括は「Vtuberに振り回されている」というものです。

そこには、Vtuberの「2.5次元」という独特な立ち位置が関係していると考えます。

 

まずHIKAKINやはじめしゃちょーなど、一般的なYouTuberというものは、当たり前ですが、生身の人間です。

彼らは私たちと同じように生活しますし、街に行けば出会えるかもしれません。ファンレターも送れば彼ら自身が読むでしょう。彼らは「私たちでも出来るけど、自分の才能で面白くしたこと」を「バラエティ」として提供することを生業としています(この辺りはテレビに登場する芸人も同じです)。

彼らも3次元、私たちも3次元。同じ世界に生きる人たちが、エンターテインメントで私たちに娯楽を提供しています。

 

漫画やアニメは、まごうことなく2次元の存在です。

彼らは私たちとは違う世界に生活しています。彼らの世界では、突然光の戦士として世界のために戦うことを求められることがありますし、はたまた別の世界では、パンの妖精がバイキンの親玉を成敗することもあります。これらは私たちの世界と交わることは基本的にありません。フィクションの存在であるからです。街を歩いていても、プリキュアアンパンマンに遭遇することは出来ません。彼らにファンレターを送っても、その世界を創った人にしか届きません。着ぐるみや声といった形で私たちと融合することがあるにしろ、それはアクターや声優といったノンフィクションの3次元の存在を借りた結果にすぎません。人々がこれを「夢」というのはそういうことです(上のような事を言うと「夢を壊すな」と言われます)。

 

しかし、Vtuberはその間にいる存在です。

 

彼らは普段フィクションの世界で動いています。現実世界に、喋る半裸のピーナッツとか、大魔王とかがいてはたまりません。彼らはその世界観の中でYouTuberとしてエンターテインメントを提供します。まるで2次元のキャラクターが、3次元の真似事をしているように見えます。

ただ、それは逆も然りです。彼らには「フィクションの魂」となる3次元の存在、すなわち「ノンフィクションの中の人」がいます。

喋るピーナッツだろうが大魔王だろうが、街を歩けば彼ら(の魂もとい中の人)に遭遇することができるかもしれません。ファンレターを送ればノンフィクションの存在である彼らが読んでいるように錯覚できます。

 

このように、Vtuberは3次元と2次元の狭間、2.5次元にたゆたうまだまだ不確証な存在です。ここに、「バーチャルさんはみている」の一つ目の失敗が見えてきます。

 

「バーチャルさんはみている」の試みは「2.5次元の存在を2次元に当てはめる」試みです。上手く次元を越えさせるには彼らの3次元的な個性を一度隠す必要が出てきます。

仮に、人気YouTuberのHIKAKINがアニメ化するとします。こうした時、おそらくHIKAKINはデフォルメされたアニメのキャラとして劇中に登場し、彼自身が声優として台本通り吹き替えをします。これは3次元が2次元に合わせている例です。

「バーチャルさんはみている」では、Vtuber2.5次元という次元的に中途半端な存在であるため、アニメの2次元世界に上手く当てはめられていないように感じます。

こうなると、「バーチャルさんはみている」を視聴した人は「これはアニメなのか?」という疑問を抱きます。何故なら、Vtuberの3次元的要素であるエンターテインメント性が隠しきれておらず、バラエティ番組のような体裁が見え隠れするためです。エンディングのお便りコーナーなどで彼女たちのわちゃわちゃする様が、知らない芸人ががやがやしてる様に感じるのはそのせいです。

2次元的要素と3次元的要素をもつ、2.5次元Vtuberという存在を持て余している。これが第一の失敗です。

 

Vtuberという閉塞的なコミュニティ

二つ目の失敗として、「内輪ネタ」を多用しすぎている点があげられます。

しかしアニメとして「ネタが分からない面白さ」、要するにある種の「シュールさ」というのを経験したことのある方もいるかもしれません。「ポプテピピック」などはその代表格です。

しかし多様なパロディを使用している「ポプテピピック」と内輪ネタを多用する「バーチャルさんはみている」とには大きな違いがあるのが現実です。

 

先程、2.5次元というVtuberの立ち位置の話をしました。Vtuberというのはこの立ち位置ゆえに、ファンに特徴ができます。

2.5次元の存在であるVtuberは、「2次元も無理、3次元※も無理」「2次元は好きだけど3次元は無理」「3次元は好きだけど2次元は無理」という方々を寄せ付けません。一方で「両方好き」だとか「2次元があれば大丈夫」「3次元があれば大丈夫」という方々をファンに抱え込みます。

 

※ここでの「3次元」は一般的なYouTuberのようなバラエティ的要素を指す。

 

「両方の次元が無理」「片方の次元が無理」というアンチテーゼな立ち位置の人々が必然的にマジョリティーになりがちです。この場合の「無理」という感情は、あらゆる琴線の一つに触れた時点で「無理」なので、その数が多くなりがちだからです(3次元のYouTuberさえ老若男女問わず大衆に認められているかと言ったらそうでも無いのも現実です)。Vtuberのファンはそれらの大衆と比較するとマイノリティになります。ちなみにここでの多数派少数派はどちらがより強権的かという違いではありませんのであしからず。

ファンがこの立場を取らざるをえないので、Vtuberのコミュニティは閉塞的になりがちです。そのためより独自の文化が育まれます。独自の文化はコミュニティ内の人間からすれば、自分たちの創り出した共通言語として面白いものと認識されますが、あまりに閉塞的であるがゆえに、コミュニティ外に認められることが非常に難しいということになります。これが「バーチャルさんはみている」内で扱われている内輪ネタであり、これでは「アニメ」という既に広く大衆に迎合されている枠組みに受け入れられるはずがないのです。

マイノリティで閉塞的なコミュニティ側は、マジョリティに合わせていかなければ、理解を得ることができません。これが「バーチャルさんはみている」の二つ目の失敗です。

 

なら別に内輪ネタで固めて、Vtuberファン向けのアニメにすればいいんじゃないのか、という声も聞こえますが、なら初めから冬アニメとして地上波公開する必要がありません。Vtuber同士でコラボしてもそれなりのものは作れます。アニメとして広く公開しているのであれば、必ずVtuberをより知ってもらいたいという意図があるはずですし、多くのファンがそれを願っているはずです。「バーチャルさんはみている」はそれに酷く矛盾しているように見えるのです。

 

☆没個性だからこそ面白さを理解出来る

三つ目の失敗として挙げたいのは、彼らの個性を活かしすぎたがために、初見視聴者(アニメという枠組みの大衆)の理解が追いついていない点です。これは内輪ネタを抜きにした話です。

 

ニコニコ動画では「バーチャルさんはみている」を「クッキー☆」と比較しているコメントが散見されます(記事冒頭のマイナス評価内でも例として挙げました)。

クッキー☆」というのは、弾幕シューティングアクションゲーム「東方Project(以下、東方)」シリーズの二次創作ボイスドラマの総称です。それらのシリーズが人気なのはその微妙な演技や作画、構成(二次創作なので無理は言えません)が「淫夢」界隈によってネタにされたためです。

それはさておき、「クッキー☆」の出演キャラクターはもちろん「東方」のキャラクターです。しかし、その内容はあまり「東方」キャラの個性的な設定が活かされているものではありません。「東方」の登場人物はVtuberにも負けないほど個性的な少女たちなのですが、「クッキー☆」の劇中ではそれらの個性が意図したものか偶然か、かなり隠されたものになっています。

もちろん「クッキー☆」も百合展開が好きな東方ファン向け、という大まかな需要があるでしょうから、これをつまらないとする人がいます。しかし、全くの初見でも百合が好きならある程度設定を迎合できるところがあります(クオリティは別として)。このように考えられるのはひとえに、物語の展開を理解できるからです。

クッキー☆」は「内容が分かった上でつまらない」と判断できるのですが、「バーチャルさんはみている」は「まず内容が分からないからつまらない」という要素が多くあるように思います(もちろん分かっててつまらない場面も人それぞれ多々あります)。もし「クッキー☆」が弾幕シューティングバトルを全面に打ち出した百合東方ボイスドラマなら、これほどまでに受け入れられなかったのではないでしょうか。

また先程例に挙げた「ポプテピピック」の主人公「ポプ子」と「ピピ美」も彼女たち自身の設定が非常に薄いのです。その為、視聴者はアニメの奇想天外な展開にだけ集中してれば面白さをいくらか感じられます。ある程度キャラクターが没個性だからこそ、視聴者が面白さを見いだせるという部分は十分にあると思います。

 

あまりに個性的で、内容を楽しむためにあまりにたくさんの前情報を必要としてしまう。キャラクター紹介も杜撰であり、メインの出演者の個性を理解しづらい。これが「バーチャルさんはみている」の第三の失敗と言えそうです。

 

☆これからの視聴者を「みている」のか

期待を背負って公開されたVtuberアニメ「バーチャルさんはみている」はスタートダッシュを失敗した格好に見えます。

私のようなVtuber好きにとっては、1クール12話見る価値があるアニメですが、先にも言った通りそれだけではただのVtuber同士のコラボと変わりありません。アニメとして多くの人にVtuberの良さを知ってもらえるための企画としては現時点では失敗しています。

果たしてバーチャルさんは、たくさんの視聴者のことを「みている」のか。その視聴者のためにこれからどんな展開を見せるのか注目する価値はあると思います。

 

ここまで長文を書き連ねてきました。これらは私個人の感想であり、駄文ではありますが、一ファンとして正直な意見であるのは確かです。

ここまでじっくり読んでくださった方に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。