紅烏のにわにわブログ 〜約束された勝利の急所〜

ドンカラス大好きにわかゲーマーの愚痴グチぐち。

【ポケ短編小説】荒野に現る"奴"

※この短編小説はポケモンを題材にした二次創作です。

 

 

 

 

 

「"奴"はポケモンの域を越えてやがる」

 

酒場で聞こえた会話に、フキヨセナッツを齧りながら聞き耳をたてた。

ここは…少し昔のイッシュ地方

ヒウンとライモンの間にある荒野には無法な酒場が乱立し、ポケモントレーナーという名の荒くれ者達が、肩で風を切るようにして歩いていた。

酒場は下世話な話や耳寄りな噂、情報通な男達が集まって、毎日毎日、酒の匂いと笑い声で満たされている。

 

「こないだもペルサの野郎のローブシンがほうほうの体で戻ってきてたぞ」

 

そういえばここらへんでも有名な地主のペルサって奴も、この間身体中に包帯を巻いて、脚を引きずって歩いていた。そういう経緯があったのか。

 

なるほど面白い。

 

「"奴"が出てくるんじゃねえかと考えると、おちおちきんのたま探しにも出掛けられねぇんだよな」

「誰か一泡吹かせてやんねえかな…」

「そんな野郎いんのかこの落ちぶれもんの溜まり場に」

「言えてらぁ」

 

湧き上がる笑い声。いつもの酒場。

だが、俺の心の中にふつふつと浮き上がるこれは、正義感だろうか。

はたまた名声を求める欲望か。

 

「…俺が行くよ」

 

笑い声がシンと収まる。男共の視線がこちらに突き刺さる。

 

「お前本気で言ってんのか」

「行くのは構わねえが…てめえのポケモンで"奴"に適うのかよ」

 

まあ…その"奴"がどんなポケモンによるかだな。

俺の手持ちは2匹。ずつきうしポケモンの「バッフロン」とゆうもうポケモンの「ウォーグル」だ。ウォーグルとは俺がバチュルぐらい小さい頃からの長い付き合いで(それこそそいつはまだ進化前のワシボンだったが)、バッフロンは、トレーナを引退した親父から譲ってもらった。2匹も俺も、互いをよく知った家族みたいなものだ。

 

こいつらとなら、この荒野に現れたならず者に一泡吹かせられるかもしれねえ。

そこで俺は、バッフロンウォーグルの顔を思い浮かべながら聞いた。

 

「で…そいつはどんなポケモンなんだ」

 

俺の目の前に座っていた黒髭の男が、苦笑しながらこう答えた。

 

「『ガブリアス』だよ、それもとてつもなく凶暴で、クソでかい奴だ」

 

それは聞くだけでも、背筋が凍る名である。

ガブリアス。マッハポケモンに分類されるドラゴンポケモンシンオウ地方が起源と聞くが、ときたまこの荒野にも姿を見せる。その分類の通り、マッハの速度で空を飛び、そして商隊の荷車を襲う。獰猛で凶悪なポケモンというイメージは脳裏から離れない。特有の甲高い鳴き声を聞くだけでも身構えてしまう。

 

「どうだ?怖気づいたか」

 

ニヤけつきながらこちらを見て吐き捨てる。

 

「"奴"に適うトレーナーなんかいねえよ、それこそ『四天王』だとか『チャンピオン』だとかを呼んだ方がいいんじゃねえのか」

 

口々にこちらを見ながら語りかけてくる男達。

 

「いや、それには及ばねえ。必ず俺の手でガブリアスをぶちのめしてやるよ」

 

そう啖呵をきった俺のことを皆、笑いながら「怪我するなよ」「死んじまっちゃ冗談にもなんねえぜ?」とマトマビールをあおりながら馬鹿にする。

 

ナメやがって、今に見てろよ。

 

 

 

そうして俺は翌日、相棒のポケモン達と共に、いつもの酒場の北にある荒野へと足を運んだ。

この辺りの岩肌では「ほしのかけら」が採取出来ることで有名で、小遣い稼ぎにここに足を運ぶトレーナーも多い。

一昨日、例によってほしのかけらを採りにここを訪れたじいさんが例のガブリアスを目撃したらしいのだ。つまり、まだこの辺りで影を潜めている可能性が高い。

ガブリアスはドラゴン・じめんタイプのポケモンだ。空を飛べるだけではなく、地面を泳ぐように潜航することも可能である。足下にも神経を張り巡らさねばならない。

 

俺はバッフロンウォーグルモンスターボールから出した。バッフロンには俺の隣で地面からの異常な振動を感じ次第知らせてもらい、ウォーグルには空からガブリアスを探してもらう作戦だ。バッフロンは歳を取ってはいるが、年の功、長年のポケモンの勘でガブリアスの潜航する地鳴りを感じ取ってくれるだろう。そして何度も言うようにガブリアスはとてつもない速度で空を飛ぶことができる。ウォーグルの目で、ガブリアスを出来るだけ早く見つけてもらいたい。

 

"奴"の姿は、存外すぐに拝むことが出来た。

 

バッフロンがいななく。何かを感じ取ったのだろう。その刹那、砂埃が舞い始め、眼前の地面が割れだした。俺は咄嗟にその地割れから遠ざかった。そして次の瞬間、巨大な"何か"が地面から猛烈な勢いで飛び出した。…間違いない。こいつだ。

 


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そのガブリアスは優に3mもあるかという巨大な図体を誇って、俺達の前に現れた。左眼と胸部に大きな傷を負い、体色は一般的なガブリアスと比べてくすんだ黒色をしていた。我以外にこの荒野を統べるもの無しといった佇まいは、俺の腰を抜かせるには充分なものであった。

 

「グルルウウウウウゥゥッ!!」

空からのウォーグルの鳴き声に俺はハッとさせられ、すぐに立ち上がった。ガブリアスはこちらを、まるで「このちっぽけな生き物は、どれだけのことが出来るのだ」と言いたげに、見下ろしている。目を逸らしてはならないと直感した。

ウォーグル!ブレイククロー!」

俺はガブリアスから目を逸らさずに、ウォーグルに命令を出した。命令を聞いたウォーグルは、ガブリアスの頭上から破壊の爪を剥いた。しかしガブリアスは振り返って見上げ、腕の鋭い翼でこれを振り払う。爪の威力と翼の威力は相殺され、少し後ろに飛ばされるも体勢を立て直すウォーグル。反動で翼を振り下ろすガブリアス。そして間髪入れずに、ガブリアスウォーグルに向けて甲高い声で吠えた。すると地面から複数の岩の塊が飛び出し、ウォーグルにまるで意思を持ったように襲いかかった。ウォーグルは素早い動きでこれをかわす。

俺は続けて、バッフロンに「アフロブレイク」を命じた。前脚で地面を掻き、突進の体制に入るバッフロンウォーグルが再びブレイククローをガブリアスに向けて放った瞬間、バッフロンはその豪快な脚力で地面を蹴り、自慢のアフロのような毛並にパワーを集中させたまま突進する。同時に攻撃し、反撃の手をどちらかに集中させ、確実にダメージを与える作戦だ。

 

しかし、こんなチンケな作戦で、突破できるほど甘くは無かった。

ガブリアスウォーグルに向け、迸るドラゴンのエネルギーを大きな口から放った。間一髪、体勢を崩しながらも避けるウォーグル。そしてそのままガブリアスは尻尾を地面に打ち付け、バッフロンを地面ごと跳ね飛ばした。

 

「ガブアァァァァァァッ!!」

甲高く、かつ勇ましい声でこちらを威嚇するガブリアス。傷だらけの身体に、俺たちはまだ一つの傷も付けられていない。

 

ガブリアスは再びこちらに向かって吠え、地面を強く踏みつけた。すると地鳴りと共に地中から無数の尖った岩の塊が飛び出した。石片が俺の帽子をかすめ、つばを切り、俺の服と肌に切り傷をつける。立ち上がったバッフロンはこれを振り払い、ウォーグルも必死で身体を蝶のように翻しかわしているが、鋭利な岩の塊が、着実に2体を傷つけている。

 

そのままガブリアスは、強靭な後ろ脚で地面を蹴り、空を飛んでいるウォーグルに向かってエネルギーを纏い、襲いかかった。ここまで勇猛果敢にガブリアスに攻撃を試み、ストーンエッジをギリギリにかわし、疲弊していたウォーグルに、驚異的速度のドラゴンダイブを避ける体力は無かった。

そして、直撃。

 

「ピィィィィ…」

鳴き声を上げながらフラフラと地面に墜落したウォーグル。辛うじて目を開けたウォーグルだったが、首を持ち上げた後、力無く倒れた。すぐに駆け寄り、モンスターボールへと戻す。正に、成す術が無かった。

 

その時、無意識にウォーグルの元へ駆け寄った俺。だがその間は、完全に無防備だった。

ガブリアスはそのまま空中からこちらへ突撃してきていた。無論、ドラゴンダイブのままである。こんなもの、人間が喰らったら即死だ。

俺は迫り来るガブリアスから目を瞑った。ウォーグルの入ったモンスターボールを握りしめながら。

 

「バフロオオオオッッッ!!」

 


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目を開けた時、俺の目の前にあったのは、ドラゴンダイブを受け止める、バッフロンの背中だった。バッフロンは頭を振り、右角でガブリアスを振り払った。体勢を崩しつつ、着地するガブリアス

バッフロンはすぐさまガブリアスに向かって突進した。デカい図体の分、立て直す動きが遅い。渾身のアフロブレイクは立ち上がるガブリアスに直撃し、ガブリアスは、数十メートル先の岩壁にぶつかるようにして突き飛ばされた。衝撃でほしのかけらの破片が散る。

 

その時のバッフロンの眼差しには、俺を護らんとする意思が、そして仲間に対する"かたきうち"の意思が、ビシビシと感じられたのだった。「バフロロォォォッ!」再び、ガブリアスを眼前に捉えいななくバッフロン

それを睨みつけたガブリアスは、「ガブゥッ…!」と鳴いた。その目にはどこか、へし折れたプライドの様なものが見えた気がした。よろめきながらも、最後の力を振り絞りながらだろうか。空へと飛び上がり、北へと消えていった。

 

よろよろのバッフロンと、モンスターボールに入ったウォーグルと、傷だらけの服を着た俺は、目に染みて沈んでゆくリザードン色の太陽を背に、いつもの酒場へと帰った。胸の中に勝ち誇った感情と、そしてどこからか湧いてくる虚しい感情をごちゃまぜにしながら。

 

 

 

それからこの荒野では、巨大な…"奴"。あのガブリアスが目撃されることはなくなった。